あの人と逢ったのもこんな春の雪の降る昼のことであった。 あの頃の私は目標も何も無くただ生きているだけであった。 このあわただしい1年を過ごすことなんて微塵も考えてなんていなかったであろう。
始まりは1年半前のことである。 私がいつもお昼を食べている公園のベンチに歩いていたら私の定位置に先客がいた。 その人はいつから寝ていたのか、体中は桜の花びらだらけで、上には猫が寝そべっていた。 降り積もる桜の花びらにも、頬に次々に当たっている降り始めたばっかりの春の雪にも、猫の寝返りにも気づかずとても気持ち良さそうにその人は寝ていた。 思わず私はお昼を食べるのも忘れ、その人に見入ってしまった。 短い黒髪にオシャレな黒縁メガネをかけ、灰色のリクルートスーツを着ている。 横には年代物の使い込んだビジネスバック。 就職活動中だろうか? はっと気づくと、もう昼休みは半分以上も終わっているっ! どれだけ見てたのかと苦笑いをしながらあわててその人の横のベンチに腰掛け、あわてて弁当を食べ、あわてて会社に戻った。 ただ、心の中にはあの人の残像がずーっと残っていた。
次にあの人に会ったのは会社でであった。 私が帰ろうと会社を出たとき、裏のほうから私が今不倫中の田端部長の怒鳴り声が聞こえた。 何事かと走って見にいって見ると、顔を真っ赤にさせながら足を振り回している部長とその足に食らい付いて話さない華奢な若い男。 そして近くに散らばっていたオシャレな黒縁メガネと見覚えのある黒いビジネスバック・・・・私は驚いた。。。 それはまぎれもなくあの公園のベンチに寝ていたあの人だったのだから・・・
つづく
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